FILE 189 ・2019年度 高得点作品からわかること

描写

■問題概要

与えられたポリ袋ポテトチップスを台紙上に配置し、鉛筆で描写しなさい。

  • ・条件
  • 1.与えられたすべての対象物を描出すること。
  • 2.ポテトチップスの中袋及び、中身を出してもよい。

作品A 246/250点

作品B 248/250点

作品C 92/250点

作品D 96/250点

4作品とも横構図で描かれた作品です。今回の再現作品のほとんどが横構図の作品でした。作品AとBは200点以上、作品CとDは100点以下という結果となりました。 京芸が発表している「平成31年度(2019年度)美術学部入学試験問題・出題の意図」を確認しながら作品を見ていきましょう。

・様々な展開が可能なモチーフを、いかに画面上に構成する事ができるかを問いました。
4作品ともに、受験生自身が最も良いと思う画面上の構成を考え、制作できていると感じます。したがって、この点に関しては4作品に大きな差は無いと思われます。

・正確に形や色を捉えて描くという描写力が,どれほど修得できているかを問いました。
作品A作品Bは、ともに「形に関して」も「表現している色」に関しても、高いレベルで制作できていると感じます。それに対し作品Cと作品Dは、どちらも「プテとチップスの容器」にまず違和感を覚えます。作品Cは歪んでいるように見えますし、作品Dは横幅に対して高さがやや低い印象を受けます。そして、両作品ともにロゴ円柱の形に合っていません。また、立体感に関しても、高得点作品と比べるとまだまだ表現できていない状態です。

・硬さ,柔らかさ,張り,半透明感等の質感表現ができるかを問いました。
ポリ袋の半透明感は、作品Aや作品Bであってもまだ表現しきれていないと感じます。しかし、ポリ袋の持つ柔らかさを含め、モチーフそれぞれの材質感の違いは、明確に描き表されているといっていいでしょう。

例年と同様に「構図」と「構成」が作品の点数に大きく関係していると感じますが、今回はそれに加え、シンプルなモチーフだからこそ、「演出」の方法も評価の基準に大きく関係していたと考えられます。
ただし、これらのことはアスクの対策の中で何度も繰り返し行ってきたことですから、その積み重ねを入試で十分に発揮することができれば、これらの点に関しては問題なくクリアできていたはずです。実際、得点の低かった作品Cと作品Dを見ても、「構成」や「演出」に関しては問題ないレベルであると感じます。
このように、「構図」と「構成」、「演出」に問題のない作品を多くの受験生が制作できたことを想像すると、今回の点数を分けるポイントは、「形の精度」と「描き込みの仕上がり」にあったのではないかと考えられます。
普段の対策の中で「構図・構成」の重要性に気づき、それをしっかりと意識しながら制作を行うこと。そして、それを何度も繰り返すことこそが、入試本番で、目の前のモチーフを描き表すために最適な「構図・構成」を選択できることにつながります。今回の結果を見ても、アスクで対策した全ての受験生が、「構図・構成」の重要性を十分に認識して課題に取り組むことができていたと実感しています。
それらに加え、今年度は「形の精度」と「描き込みの仕上がり」という、描写課題の基本ともいえる部分がしっかりと身につき、実際に表現できているかが、重要な評価のポイントになったといえるでしょう。

色彩

■問題概要

テーマ「メロディ」
下記の条件にしたがって色彩表現をしなさい。

  • ・条件
  • 1.解答用紙は、長辺を上下とし、表裏どちらを使ってもよい。
  • 2.下図に示すように、解答用紙は、上部と下部に、各9㎝幅の余白を設けて、
      中央部を解答画面とし、余白部分には、彩色しない。彩色は不透明水彩絵具を使う。
  • 3.解答画面は、直線で分割し、各直線の両端は、解答画面の端に接する。
  • 4.直線で分割されたそれぞれの面は1色だけで彩色し、色の濃淡を用いずにベタ塗りのみとする。
  • 5.隣接する面同士は、同色にならないようにする。

作品E 236/250点

作品F 242/250点

作品E 84/250点

作品F 96/250点

今年度の出題の特徴は、「メロディ」というテーマが具体的な何か(音符や楽器など)をイメージしやすい言葉であるにもかかわらず、「直線での分割」や「ベタ塗り」などの指定があったこと、そしてなんといっても横長の解答画面であったことでしょう。 「平成31年度(2019年度)美術学部入学試験問題・出題の意図」には、以下の2点が記されています。

・横長の解答画面の特徴を活かして,直線で分割し画面構成することで,基礎的な構成力を求めました。
・「メロディ」から自由に発想を拡げ,豊かな色彩感覚で表現できているかを求めました。

まず、「メロディ」から自由に発送を拡げるという点に関してですが、自由に発想を拡げながらも、あくまでも「メロディ」を第三者に感じさせなくてはなりません。例えば、作品Hを見てみると、確かに「メロディ」という印象も受けるのですが、「光」や「奥行き」といった「メロディ」とは異なるイメージを感じ取ることもできてしまいます。高得点の作品Eや作品Fから「メロディ」以外のイメージを感じ取ることができないというわけではないのですが、最初に強く見えてくる印象として「メロディ」という言葉が想起されることは間違いありません。
また、「豊かな色彩感覚」という点から見ると、作品Gは多くの色を使っていて、今回の4作品の中では最もカラフルに仕上がっているように感じますが、京芸の「評価のポイント」には
・色の持つ効果をよく理解した上で,組み合わせと配置を行い,表現できているか
とも書かれています。 その観点から見てみると、様々な色を多用することによって画面にまとまりを作ることが難しくなり、「メロディ」という音の調和やリズムから成り立っているものとは別の、やや騒がしい印象を与えてしまう作品になってしまったといえます。
一方、横長の解答画面の特徴を活かした画面構成に関して考えてみると、作品Eと作品Fは左から右に向けて長い距離を目線が誘導される印象を受けます。作品Hにもその要素はあるのですが、画面の上下を利用した「手前と奥の空間表現」の方がより強く印象に残ってしまいます。作品Gに関しては、普段行っている画面構成を単純に横伸ばしにしただけと捉えられかねない構成となっています。
近年の出題と異なる点が多くあり、問題文を見たときに困惑した受験生も多かったかと思いますが、解答画面が特徴的であったことから、「この画面を活かした構成が求められている」ということには、多くの受験生が気づくことができたと思います。「テーマと条件に柔軟に対応できる力」と「発想力」、そして「時間内にそのイメージを実現させる力」など、根本的に求められていることは近年の出題と何ら変わっていなかったことが、受験生の作品の点数が判明するとともに明らかになってきました。

立体

■問題概要

与えられた組立式箱と学習帳を材料に「解体と再構築」をテーマ
として、下記条件に基づいて立体表現しなさい。

  • ・条件(一部抜粋)
  • 1.解答作品には解答用材料として組立式箱1セット、学習帳1冊を使用しなさい。
  •   接着固定材料として木工用速乾接着剤、紙粘着テープのみを使用しなさい。
  • 2.支給された解答用材料は必ず使用すること、ただし材料はすべて使いきらなくてもよい。
  • 3.解答作品は解答用台の上に設置すること。
  • 4.解答作品は解答用台(35㎝×35㎝)をはみ出さず、また高さ35㎝からはみ出さないこと。
【支給されるもの】
 
解答用材料
:組立式箱1セット(本体、仕切り)、学習帳1冊
接着材料
:木工用速乾接着剤1個、紙粘着テープ1巻
解答用台
:茶色段ボール1枚(35cmX35cm)
移動用カバー
:茶色段ボール箱1個、カバー固定用テープ2枚
制作支援用品
:灰色ボール紙1枚40cmX55cm(作業用)、上質紙3枚(アイデアスケッチ用)

作品I 206/250点

作品J 250/250点

作品K 70/250点

作品L 120/250点

製品である学習帳と組立式箱が解答用材料として出題されました。
アスクでも普段から、製品を解答用材料とした立体課題の対策には取り組んでいますので、アスクからの受験生に関しては今回の材料に戸惑うことはなかったと思います。実際、今回制作された再現作品は、立体としてはどれも魅力的に作られたものばかりでした。
問題となったのは、テーマの「解体と再構築」を受験生それぞれがどの様に解釈し、表現したかという点です。与えられた材料を使用して作品を作れば、何も考えずとも解体して再構築したことになるという点が、今回の出題では非常に重要なポイントであったと考えられます。
さらに、今回の出題では「受験生自身が何を意図して製品を解体したか」が見えてこなければいけませんので、製品を材料に変化させるところが最も重要な制作過程であったといえるでしょう。
作品Iと作品Jは、ともに学習帳に記載されている文字に着目し、その文字列を分解するような加工方法を選択しました。それに対して作品Kと作品Lは、普段使用しているケント紙と変わらない面材として解答用材料を扱い、それをオーソドックスに加工しただけのような印象を受けます。
最初の解体を意図的に行えば行うほど、その後の再構築がイメージしやすくなります。立体作品として魅力的な形を作るということは、対策の中で常に求められることなので、多くの受験生が最終的な形に注意して制作に取り組んでいたと思います。
しかし今回は、様々な表情を持つ学習帳をどのように解体したのかで、点数が大きく分かれたのではないかと判断することができます。京芸の「受験生へのメッセージ」にも書かれているように、今年度は、ブリコラージュ的な発想、思考が特に必要となる出題であったといえます。
普段行っている対策を意識することも重要ですが、まったく初めての課題に取り組む可能性もある入試では、「材料の特性を瞬時に掴む判断力」と、「テーマから求められていることを的確に読み解く力」が必要であることは、間違いありません。



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